「しゃべる紙」に新たな風、日本テレソフトが読み取り装置を商品化
日本語版コードの課題山積み
テキストデータを2次元コードに変換し、それを専用の機器で音声化する「音声コード」、いわば「しゃべる紙」が新しい展開を見せている。
日本では数年前から、QRコードに似たSPコードといわれる独自の2次元コードを利用し、案内資料やパンフレット、ガイドブックなどの文書をコード変換、このコードを文書と同時に印刷することで、視覚障害者が音声で読み取ることが出来るようになっている。「紙」が話すというもので、目の不自由な人や高齢者、それに日本語は読めないが話は分かるという外国人に便利なバリアフリーなメディアだ。
主に行政機関で広報誌やお知らせなどに利用され、最近では年金特別便の封筒にもSPコードが印刷されるなど、普及への努力が続いている。しかし、日本のSPコードには課題も多かった。
まず、専用機器による読み取りの精度と印刷に課題があり、うまく読めないという苦情が続いていた。印刷用紙にも制限があり、再生紙や新聞用紙には対応しない、インクジェットによる印刷はダメと、日常に使用する上でとても不便であった。
また、1つのコードに収まるのは600文字以内という情報量の少なさも問題だった。
他方、厚生労働省では盲人団体や一部政党の要望を受け、この普及に力を尽くしてきたが、2社あった専用メーカーのうち1社が生産を中止するなど、普及にブレーキがかかっていた。
進む韓国の音声システム
日本はある意味、SPコードの実用化が早すぎたともいえる。近年の急激な技術力の進歩により、技術面で少し時代遅れになってしまったのだ。
これに対して、韓国は新世代コードといわれる「ボイスコード」を導入した。08年から、政府が発行する証明書、自治体が発行する出生証明書、住民書、大学の卒業証書、成績証明書などの公的文書のほか、民間では新聞、書籍にも音声コードが印刷されており、公文書では280種、民間では300種類の音声コード付きの書類や印刷文書があり、さらに増える勢いだ。電子政府、IT推進に力を入れる韓国ならではといえる。この背景に、政府が08年に情報の差別禁止法という法律を施行したことがある。
これは罰則付きの法律で、音声コードを公文書には付加するように義務付けし、視覚障害者のために、音声による情報入手の利便性を図るように促し、公務員の名刺には点字印刷を課すなど広範な施策を進めている。国家や行政機関の情報提供に関しては、「ずばり、差別をするな、必要な措置を尽くせ」という強力な法律である。
さらに、こうした福祉機器の開発推進に多額の民間援助を行い、技術開発を後押しした。しかも、巨額の開発資金を1社に集中的に投資するなど、費用も効率的に運用し、その結果、世界最先端の商品が誕生した。
その1社というのが音声コードを開発し、政府に採用された「ボイスアイ社」。独自の音声コードは、情報量がSPコードの約2倍あり、印刷対応に非常に優れており、SPコードのような印刷の制限が無い。また、近く商品化されるカラー音声コードは、人の声や音楽なども蓄積が可能な、大容量の情報量を持つものになる。
ボイスアイ社の普及戦略は、情報の差別禁止法を背景に、行政機関にとにかく音声コードを利用するようにと促したことだ。視覚障害者団体の支援もあったという。一方、民間の出版社や印刷会社には音声コード作成用のソフトウエアを無料で配布し、コンテンツの多様性を目指した。そういった努力の甲斐があり、現在、行政機関はもとより、新聞や雑誌にも採用されている。
ページの右上に切手大のコードがあり、中には2つ並んでいるものもある。成績証明書、ガスや電気、電話の請求書、領収書、判決文にも採用された。
このコードを作成するソフトも多様だ。ワードにアドインする「ボイスアイメーカーソフト」は、ワードで文書を作成すれば簡単な操作でコードが自動的に作成されて、右上に印刷される。編集会社などで使うには、デザイン用のソフトがあり、正確な印刷を可能にしている。HP上の内容を印刷するときも自動的にコードが付加されるなど、この多様なソフトの販売によって会社は利益を得ている。
一方、コードの読み取りには携帯型とPC対応型が商品化されている。携帯型は、ウィンドウズCE搭載の携帯電話サイズのもので、付属の専用カメラとつないで使用する。SPコードに携帯カメラを当てれば、その内容をしゃべる仕組みだ。MPEG3対応で、録音された音楽やFMラジオを再生する機能もある。価格は6万円程度だが、政府の補助金が支給されるため、障害者は1万円程度で購入できる。PC対応型は専用カメラをつけて、専用ソフトをインストールすればいい。携帯型よりも使いやすくなっている。
さらに、スタンド型タイプの行政機関用は、読み取り機能だけなく点字出力装置が加わり、障害者が利用しないときには役場のガイドが流れるなど、デジタルサイネージュの機能を持つ。韓国の主要な行政機関500ヶ所に設置する予定だという。
スピーチオPLUSを発売
SPコードと新コード「ボイスコード」の2つに対応
行政の現場では、SPコード専用読み取り機器や日本語版の音声コードについて、読めない、使えないという不満が大きい。しかし、すでに多くの障害者の方が読み取り機器を購入しており、広報誌にSPコードを付けて情報の提供を熱心に進めている行政機関もある。この実態を無視は出来ない。ベータvsVHSの規格競争と同じ課題だ。
そこで、SPコードと、さらに機能的に優れたボイスアイコードの両方に対応する機器「スピーチォPLUS」が開発された。商品化したのは、株式会社日本テレソフト(東京都千代田区麹町1-8-1 電話03-3264-0800)で、日本におけるSPコードの権利者である廣済堂スピーチオ販売株式会社、それに韓国のボイスアイ社が協力した。
この協力関係によって、従来のSPコードも読めるうえ、読み取り感度が良くSPコード専用機器では読めないものも、このスピーチォPLUSでは正確に読める。必要に応じて、SPコードでなく情報量が多く使い勝手の良いボイスコードに代えて使うことも可能で、専用の作成ソフトが試用としてついている。SPコードから新コード・ボイスアイコードへの移行が出来る。
PC対応型スピーチォPLUSは49、800円(税別)。日本テレソフトと廣済堂スピーチオ社が販売する。日常生活福祉用具で、障害のある方で、役場などで認められた場合は、1割負担で購入できる。さらに、来年には、携帯対応、録音・再生可能もついた専用機器など、便利な機器もお目見えする。
実はこのコード化、障害者向けだけでなく簡単な情報管理にも有効だ。個人情報などの文書管理を担当する関係者だけが内容を文字として読むことや音声化して聞くことができる。傍目にはコードだけが目に触れる。
さらに面白いのは、コードをカラー化することでより情報量が高まり、人物の声や音楽もコード化できる。年賀状に印刷し、再生すればそこから当人の肉声や女優さんの優しい声で新年のあいさつが聞けることになる。印刷物の可能性を大きく広げる楽しみがある。他にも、商品情報を入力することにより、買い物時に内容物の確認や生産地の紹介など多様な情報提供も出来る。消費者行政の推進役を担うことになりそうだ。
2次元コードに新しい風が吹いてきた。
(月刊 NEW MEDIA 11月号より)
テキストデータを2次元コードに変換し、それを専用の機器で音声化する「音声コード」、いわば「しゃべる紙」が新しい展開を見せている。
日本では数年前から、QRコードに似たSPコードといわれる独自の2次元コードを利用し、案内資料やパンフレット、ガイドブックなどの文書をコード変換、このコードを文書と同時に印刷することで、視覚障害者が音声で読み取ることが出来るようになっている。「紙」が話すというもので、目の不自由な人や高齢者、それに日本語は読めないが話は分かるという外国人に便利なバリアフリーなメディアだ。
主に行政機関で広報誌やお知らせなどに利用され、最近では年金特別便の封筒にもSPコードが印刷されるなど、普及への努力が続いている。しかし、日本のSPコードには課題も多かった。
まず、専用機器による読み取りの精度と印刷に課題があり、うまく読めないという苦情が続いていた。印刷用紙にも制限があり、再生紙や新聞用紙には対応しない、インクジェットによる印刷はダメと、日常に使用する上でとても不便であった。
また、1つのコードに収まるのは600文字以内という情報量の少なさも問題だった。
他方、厚生労働省では盲人団体や一部政党の要望を受け、この普及に力を尽くしてきたが、2社あった専用メーカーのうち1社が生産を中止するなど、普及にブレーキがかかっていた。
進む韓国の音声システム
日本はある意味、SPコードの実用化が早すぎたともいえる。近年の急激な技術力の進歩により、技術面で少し時代遅れになってしまったのだ。
これに対して、韓国は新世代コードといわれる「ボイスコード」を導入した。08年から、政府が発行する証明書、自治体が発行する出生証明書、住民書、大学の卒業証書、成績証明書などの公的文書のほか、民間では新聞、書籍にも音声コードが印刷されており、公文書では280種、民間では300種類の音声コード付きの書類や印刷文書があり、さらに増える勢いだ。電子政府、IT推進に力を入れる韓国ならではといえる。この背景に、政府が08年に情報の差別禁止法という法律を施行したことがある。
これは罰則付きの法律で、音声コードを公文書には付加するように義務付けし、視覚障害者のために、音声による情報入手の利便性を図るように促し、公務員の名刺には点字印刷を課すなど広範な施策を進めている。国家や行政機関の情報提供に関しては、「ずばり、差別をするな、必要な措置を尽くせ」という強力な法律である。
さらに、こうした福祉機器の開発推進に多額の民間援助を行い、技術開発を後押しした。しかも、巨額の開発資金を1社に集中的に投資するなど、費用も効率的に運用し、その結果、世界最先端の商品が誕生した。
その1社というのが音声コードを開発し、政府に採用された「ボイスアイ社」。独自の音声コードは、情報量がSPコードの約2倍あり、印刷対応に非常に優れており、SPコードのような印刷の制限が無い。また、近く商品化されるカラー音声コードは、人の声や音楽なども蓄積が可能な、大容量の情報量を持つものになる。
ボイスアイ社の普及戦略は、情報の差別禁止法を背景に、行政機関にとにかく音声コードを利用するようにと促したことだ。視覚障害者団体の支援もあったという。一方、民間の出版社や印刷会社には音声コード作成用のソフトウエアを無料で配布し、コンテンツの多様性を目指した。そういった努力の甲斐があり、現在、行政機関はもとより、新聞や雑誌にも採用されている。
ページの右上に切手大のコードがあり、中には2つ並んでいるものもある。成績証明書、ガスや電気、電話の請求書、領収書、判決文にも採用された。
このコードを作成するソフトも多様だ。ワードにアドインする「ボイスアイメーカーソフト」は、ワードで文書を作成すれば簡単な操作でコードが自動的に作成されて、右上に印刷される。編集会社などで使うには、デザイン用のソフトがあり、正確な印刷を可能にしている。HP上の内容を印刷するときも自動的にコードが付加されるなど、この多様なソフトの販売によって会社は利益を得ている。
一方、コードの読み取りには携帯型とPC対応型が商品化されている。携帯型は、ウィンドウズCE搭載の携帯電話サイズのもので、付属の専用カメラとつないで使用する。SPコードに携帯カメラを当てれば、その内容をしゃべる仕組みだ。MPEG3対応で、録音された音楽やFMラジオを再生する機能もある。価格は6万円程度だが、政府の補助金が支給されるため、障害者は1万円程度で購入できる。PC対応型は専用カメラをつけて、専用ソフトをインストールすればいい。携帯型よりも使いやすくなっている。
さらに、スタンド型タイプの行政機関用は、読み取り機能だけなく点字出力装置が加わり、障害者が利用しないときには役場のガイドが流れるなど、デジタルサイネージュの機能を持つ。韓国の主要な行政機関500ヶ所に設置する予定だという。
スピーチオPLUSを発売
SPコードと新コード「ボイスコード」の2つに対応
行政の現場では、SPコード専用読み取り機器や日本語版の音声コードについて、読めない、使えないという不満が大きい。しかし、すでに多くの障害者の方が読み取り機器を購入しており、広報誌にSPコードを付けて情報の提供を熱心に進めている行政機関もある。この実態を無視は出来ない。ベータvsVHSの規格競争と同じ課題だ。
そこで、SPコードと、さらに機能的に優れたボイスアイコードの両方に対応する機器「スピーチォPLUS」が開発された。商品化したのは、株式会社日本テレソフト(東京都千代田区麹町1-8-1 電話03-3264-0800)で、日本におけるSPコードの権利者である廣済堂スピーチオ販売株式会社、それに韓国のボイスアイ社が協力した。
この協力関係によって、従来のSPコードも読めるうえ、読み取り感度が良くSPコード専用機器では読めないものも、このスピーチォPLUSでは正確に読める。必要に応じて、SPコードでなく情報量が多く使い勝手の良いボイスコードに代えて使うことも可能で、専用の作成ソフトが試用としてついている。SPコードから新コード・ボイスアイコードへの移行が出来る。
PC対応型スピーチォPLUSは49、800円(税別)。日本テレソフトと廣済堂スピーチオ社が販売する。日常生活福祉用具で、障害のある方で、役場などで認められた場合は、1割負担で購入できる。さらに、来年には、携帯対応、録音・再生可能もついた専用機器など、便利な機器もお目見えする。
実はこのコード化、障害者向けだけでなく簡単な情報管理にも有効だ。個人情報などの文書管理を担当する関係者だけが内容を文字として読むことや音声化して聞くことができる。傍目にはコードだけが目に触れる。
さらに面白いのは、コードをカラー化することでより情報量が高まり、人物の声や音楽もコード化できる。年賀状に印刷し、再生すればそこから当人の肉声や女優さんの優しい声で新年のあいさつが聞けることになる。印刷物の可能性を大きく広げる楽しみがある。他にも、商品情報を入力することにより、買い物時に内容物の確認や生産地の紹介など多様な情報提供も出来る。消費者行政の推進役を担うことになりそうだ。
2次元コードに新しい風が吹いてきた。
(月刊 NEW MEDIA 11月号より)